アメリカ合衆国ミシガン州デトロイトに位置し、かつて自動車メーカー、パッカードの主要工場として稼働していた、約32万5,000㎡を有する「パッカード自動車工場」の跡地に、新たにエレクトロニック・ミュージック博物館や屋内スケートパークを有する複合施設が建設される計画が発表された。
パッカード自動車工場は1956年に閉鎖され、最近までは悪名高き巨大な廃墟ビル群となっており、ある意味デトロイトを象徴する風景として知られていた。この廃墟ビル群では違法レイヴ等も多数開催されていたが、1年ほど前から遂に一部を残して解体されつつあった。

https://commons.wikimedia.org/wiki/Category:Packard_Automotive_Plant
デトロイト市のマイク・ダガン市長は今週火曜日、手始めに約24万平方メートルの複合施設を約11万平方メートル再開発するという基本合意書に署名したことを発表。
この開発計画では、最終的に約3万9,000平方メートルの工業ビル群が建設され、製造業と建設業で300人の雇用を生み出すことが期待されている。改装された1万0,870平方メートルのカーン・ビルディングには、デトロイト電子音楽博物館(MODEM)、42戸の低価格住宅、クリエイティブ・プログラミング・スペース、そして同市初となる屋内スケートパークが含まれているとのことで、このプロジェクトは老朽化しつつも歴史的な建物を保存すると同時に、周辺地域に新たな経済機会を創出することを目指しているとのことだ。

マイク・ダガン市長は以下のようにコメントしている。

5年前、パッカード工場はデトロイトを象徴する廃墟として立ち並び、周辺地域の経済を悪化させていた。
今日のような日を願って、土地の所有権を取得し、残すことのできないものを全て取り壊すには、信じられないほどの労力が必要だった。

アルバート・カーンによって設計され、1903年〜1911年にかけて建設されたパッカード工場は、かつて世界で最も先進的で広大な自動車製造施設の一つで、大量生産技術の初期の発展において極めて重要な役割を果たし、アメリカの産業革新の中心地としてのデトロイトの台頭を象徴していた。
1956年にパッカード工場が操業を停止した後、数十年に渡ってビル群は荒廃し、産業衰退とデトロイトの長引く経済不況を象徴するアメリカ国内で最も悪名高い事例の一つとなっていた。

1920 年のパッカード自動車工場 / Credit: The Old Motor/Wikimedia Commons


テクノ発祥の地としてしばしば言及されるデトロイトは、1980年初頭、脱工業化社会の激動期に直面するデトロイトにおいて、地元のイノベーターたちがエレクトロニック・ミュージックの実験性を活かし “テクノ” というジャンルを育んだ。Juan Atkins(ホアン・アトキンス)、Derrick May(デリック・メイ)、Kevin Saunderson(ケヴィン・サンダーソン)による The Belleville Three(ベルヴィル・スリー)によって開拓されたデトロイト・テクノは、地下スタジオやアンダーグラウンド・クラブでスタートし、その後、国際的なエレクトロニック・ミュージック・ムーブメントの基盤を築き、街のアイデンティティを象徴する重要な存在として今もなお存在し続けている。
デトロイトでは開催されてきた全米屈指のテクノ&ハウス・フェス「Movement」は、2026年に20周年を迎える予定だ。


新デトロイト市長として選出されたメイ・シェフィールド市長も、同プロジェクトの文化的意義を強調している。

この場所は、60年以上も放置されていた。
今日、我々はそのような時代は終わったと宣言する。歴史の保存、雇用の創出、住宅の拡張、そして文化とコミュニティへの投資を同時に行うことで、我々は過去を尊重しながら未来を築いていくのだ。

アメリカのミシガン州に特化したローカル・ニュースサイトの MLive によると、このプロジェクトは株式投資、商業ローン、慈善事業、税額控除、そして州及び地方の経済開発プログラムを通じて資金が調達される。建設は2029年の完成が予定されている。